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椿油伝説


椿油伝説_e0089532_772865.jpg
ヤブツバキの花も盛りを過ぎる頃だろうか、
林道を覆い被さるように立つその株の周りには、
随分日の経ちそうなものやまた艶やかさの残る落椿が散らばっている。

苔の上の血の引いた唇のような色の花を一つずつ目で追っていると、
それに混ざって、クローバー形の木の皮のようなものが二つ三つと落ちている。
焼き過ぎのクッキーのようにも見えるその不思議な落とし物は、
種を落とした後のヤブツバキの果皮である。

ヤブツバキの種子は椿油の原材料。
かつて我が国では、椿油は整髪剤、食用油、灯油として生活に無くてはならないものであった。
中国では21種ある「不老不死の薬」のうちの一つとされ、また、『続日本紀』には、
旗渤海の使者の帰途に際し椿油が一缶送られたと記述されているように、
この貴重な油は古来より日本の特産物として隣国にも知られたいたようだ。

椿の種子1㎏を搾って得られる油は250mlという。
里山の一角に、ヤブツバキが群を成して生えている所に出会ったりするのは、
採油用の種子を得るために植えられていた椿の林なのだろう。

日本の各地にこの木を広めたのは、八百年も生きたという八百比丘尼という女性。
東北から中国、四国と遍歴し、行く先々で椿の苗を植えたのだという。
日本女性の美しい黒髪を守るのは、
今やリンスやシャンプーに取って代わってしまったから、村々に残るこのヤブツバキが、
美しい女僧の伝説を秘めた聖樹であることなど思い出す人はいない。

苔の上に転がる焼き過ぎのお菓子に再び目を転じると、
山道を通り過ぎる人に、有用植物であった過去の栄華を何とか知らせようと、
大きく口を広げ身を焦がしながら呼びかけているようにも思えるのであった。
[Canon EOS20D TAMRON IF28-75mm F2.8]

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by escu_lenta_05 | 2007-03-13 07:07 | 植物
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