軒先に、隣家からもらい受けた壊れた洗濯機を一つ並べてみた。
噂は直ぐに広まったらしい。洗濯機が裏の小屋一杯になる程集まった。
荒ゴミの前夜に集積所を回り、電子レンジなども拾い集めた。
夢が叶った『電気屋』で、爺さんは椅子に腰掛けて毎日客を待った。
何年も何年も、じっとそこに座って待った。
何時しか、その椅子だけが店番をするようになっていた。
そこに陽の射す時だけ、黒い野良猫が丸くなっていた。
それ以外、ランドセルを背負ったいたずら小僧達がちょこっと尻を降ろし、
『爺さんの幽霊が出るぞ!』と叫びながら日課のように駆け出して行くだけで、
電機屋の爺さんが居た時と同じように立ち寄る客などいない。
少し斜めに向けて腰掛ける店主の癖を記憶したまま
時を刻み続ける椅子。
『電機屋』に成りたかった爺さんの椅子がある。
[Canon EOS20D EF16-35mm F2.8L]