
イネの生育具合を見てみようと、
通りがかった水田で車を止め、畦にしゃがみ込む。
すっかり活着した若苗の列は、
一週間程前に比べるとずっと濃い緑になったように思う。
その苗の列の田水の中に、俊敏に動き回っている2種類の水生生物が見える。
ひとつはホウネンエビで、もう一つはこれよりもっと大型である。
近づいてきたのを見ればカブトエビだ。
カブトエビは久しぶりに見たので、スタジオ撮影用に一匹掬って持ち帰ることにした。

カブトエビはエビやカニと同じ節足動物のカブトエビ科
Triopsidaeの仲間で、
ミジンコ類に最も近いという。
姿の良く似たカブトガニと同様に、
ジュラ紀(約1億9500万年~1億3600万年前)からほとんど形態が進化していない生きた化石である。
目は全部で三つで、真ん中の目はノープリウス眼と呼ばれ、
甲殻類の幼生にある目(ノープリウス)が成体にも残っていて、
これがカブトエビの原始的特徴となっている。

田に水が入れられると、3~5日程度で孵化し、
孵化から僅か10日程度で産卵を行ない、1~2ヶ月の短い一生である。
泥の中に残った卵は乾燥や寒さに強い。
卵は、水の抜かれた乾田や、雪の積もる冬田に耐えて、
土中で翌年の田植えの季節まで待つのである。
カブトエビは水田の雑草を食べる。
さらに、移動しながら田の水底の泥をかき混ぜることで、
田水が濁って光が遮られて、田の雑草の発芽や生長を抑制するから、
「田の草取り虫」と呼ばれる雑草駆除の益虫となっているのである。
日本には3種のカブトエビ属(Triops )が生息している。
近畿以西に分布するアジアカブトエビ
T. granarius (雌雄異体)と、
山形県に分布するヨーロッパカブトエビ
T. cancriformis (雌雄同体)、
そして、関東以西に分布し、三種の中で最もポピュラーな
アメリカカブトエビ
T. longicaudatus (雌雄同体)である。
アジアカブトエビは在来種と見られている?が、他の2種は移入種である。
日本での初認記録は、アメリカカブトエビが1916年に香川県で、
ヨーロッパカブトエビが1948年に酒田市広野で初めて発見された。
アメリカカブトエビは、科学雑誌の付録の飼育キットが国内の分布拡大に
一役かっているという意見もある。
さて、撮影のモデルになったカブトエビはどの種だろうか。
詳しくは尾の棘の形状を詳しく見る必要があるので、
それは暫くお預けとしておこう。
撮影:2010.06.25 / NIKKOR ED70-180mm F4.5-5.6D
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